日本語教師の経験から学んだ、顧客オンボーディングと麻雀指導のコツ
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2026年9月30日更新
2015年8月から2016年8月まで、私はブエノスアイレス大学の語学センター(CUI)で日本語を教えていました。数年前に自分が日本語と中国語を学んだ場所なので、教わる側の気持ちも少しは分かっていたと思います。
あれから10年ほど経ち、今の私が「教える」場所は、見た目はあまり教室らしくありません。Vercelではアジア太平洋・日本のカスタマーサクセスチームを率いていて、エンタープライズ顧客のオンボーディングが仕事の大きな部分を占めています。麻雀では、リーガロイヤルホテル大阪の土田浩翔プロの麻雀教室でアシスタントを務め、英語・スペイン語・日本語でコーチングもしています。どれも準備の仕方は同じで、その大半は日本語を教えていた1年間で身につけたものです。
ゴールは「できるようになること」で書く
「今日は『て形』をやります」で始まる授業は、教える側のシラバスが中心です。いい授業は、終わったときに学習者が何をできるようになっているかから考えます。道を尋ねる、昨日したことを話す、指を差さずに注文する。日本語教育では、これを「Can-do」と呼びます。これが決まっていると、ほかの判断がすべて楽になります。どの練習も、その「できる」に近づくか、近づかないかのどちらかだからです。
次は順番です。ひらがなの次に漢字、現在形の次に過去形。まだ教えていないことを前提にした内容は出しません。当たり前に聞こえますが、オンボーディングの計画で一番飛ばされるのがここです。まだ何もデプロイしていないチームに、いきなり2時間のアーキテクチャ説明をしてしまう。初日に文法の講義をするのと同じです。
麻雀も同じです。初心者に教えるなら、私は手の組み立て方、牌効率、押し引き(特にオリる判断)、場の読み、の順番にします。以前Osamuko.comに英語で「Tile Efficiency 101」という連載を書きましたが、牌効率だけで連載がひとつできてしまいました。それでも、まだ2番目のステップです。
エンタープライズのオンボーディングに当てはめると、こうなります。
- アクセス:アカウント、SSO、権限の整理
- 小さくてもいいので、実際のプロジェクトを1つデプロイする
- その上にチームのレビューの流れを乗せる
- 本番:ドメイン、切り替え、ロールバック
- 監視、利用量、コスト
各ステップを「できること」で書けば(例:「チームが自分たちだけで本番のデプロイをロールバックできる」)、それがそのまま、イネーブルメント各回の目標になります。
「何か質問はありますか?」の代わりに理解を確かめる
「何か質問はありますか?」は、教える側がする質問の中で一番役に立たないものです。分かっていない人は何を聞けばいいのかも分からず、恥ずかしがり屋の人はみんなの前では聞きません。上司が同席している日本の会議室なら、まず沈黙になります。そしてその沈黙は、誰かが理解したという意味ではありません。
教室では、実際に使ってもらって確かめます。日本語で答えてもらう、動詞を活用してもらう、文の意味を自分の言葉で説明してもらう。答えを聞けば、誰がついてきているかがはっきり分かります。
麻雀には、これにぴったりの道具があります。何切る問題です。手牌と状況を見せて、切る牌を1枚選び、理由を言ってもらいます。選んだ牌でその人の知識が分かり、理由を聞けば、本当に分かっているのか、たまたま当たったのかが分かります。
イネーブルメントでは、「何か質問は?」を課題に置き換えます。
- 「このブランチをデプロイして、プレビューのURLを送ってください」
- 「1つ前のデプロイにロールバックしてください。何分かかりましたか?」
- 「明日このページが重くなったら、まずどこを見ますか?」
3つ目に誰も答えられなければ、次回のテーマは決まりです。
早めに挑戦して、傷の浅いうちに失敗してもらう
2019年、麻雀ウォッチさんのインタビューで、私はこう話しています。「言語を覚えるには、失敗してもいいからどんどん前に出て先に進むことですね」。今でも、大事なのはほぼこれだけだと思っています。準備ができてから話そうとする人は、いつまで経っても話しません。声に出した間違いは直してもらえますが、口に出さなかった間違いはそのまま残ります。
麻雀の初心者も、役を全部覚える前に実戦を打った方がいいです。放銃もするでしょうし、リーチをかけ忘れることもあるでしょう。それでいいんです。練習卓はそのためにあります。
お客様の場合、失敗しても傷が浅くて済むのは、最初の週のプレビュー環境で、こちらがそばにいるときです。高くつくのは3か月目の本番環境、それも誰も気づかなかった誤解の上に、チームがすでに何かを作ってしまったあとです。だから最初の挑戦は、あえて早めに設定します。
日本では、これが思った以上に難しいです。同僚の前で間違えたくないのは、誰でも同じだからです。そこで、間違いを課題の一部にしてしまいます(「このステップではエラーが出ます。原因を探してみてください」)。失敗が予定どおりだと分かれば、みんな肩の力が抜けます。
最初の成功体験を作る
早めに挑戦してもらうなら、その最初の挑戦は「うまくいった」で終わらせる必要があります。初回の授業の終わりに自己紹介ができるようになった学生は、2回目も来ます。文字の歴史の説明だけで1回目が終わった学生は、もう来ないかもしれません。
麻雀なら、初心者には最初の日に1回はアガってほしいと思っています。安い手で構いません。リーチ・タンヤオで十分です。これは「まず楽しむ、次に上達、勝つのはその後」という私の優先順位にも合っています。最初のアガリは、「勝つ」ではなく「楽しむ」の方に入るものだからです。
お客様にとっての最初の成功は、早い段階で本番に出る何かです。小さなサイト、社内ツール、メインのプロダクトの1ページなど。担当者が社内で見せられるものができると、日本の大企業向けカスタマーサクセスの記事にも書いたとおり、プロジェクトの予算がつき続けやすくなります。
オフィスアワー
オフィスアワーは、なくてもよさそうに見えて、実は欠かせないものです。決まった時間に誰でも何でも持ってこられる場があると、おとなしい学生が、授業中には聞けなかったことを聞きに来ます。
お客様にも同じものが必要です。アカウントに関わるエンジニアなら誰でも(SIerの方も含めて)参加できる、アジェンダなしの定期枠です。ここでは、定例に出すほどでもないと思われていた問題が拾えます。そして、あとでエスカレーションに育つのは、たいていそういう問題です。麻雀のコーチングなら、本人が持ってきた牌譜の検討がこれにあたります。自分の間違いなので、講義よりずっと身につきます。
まとめ
教室の目で見れば、サクセスプランはシラバスです。目標はお客様の成果で、チームが「できること」として書きます。順番はオンボーディングのフェーズ。確認は、こちらがチェックを付けるものではなく、お客様自身がやってみせるマイルストーンです。最初の成功体験は最初の1か月に入れ、オフィスアワーが全体を下から支えます。
イネーブルメントの1回は、授業の1コマです。準備のチェックリストは短くて構いません。
- 目標は1つだけ。最初に「できること」として伝える
- まだ扱っていないことを前提にした内容は入れない
- 最初の15分で全員が製品を触る
- 最後は「何か質問は?」ではなく課題で締める
- 終わる前に、何か1つ動くものを作る
次のセッションが終わったとき、お客様は、今はできない何ができるようになっているでしょうか。