麻雀プロが仕事で使っている「押し引き」の考え方

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2026年9月30日更新

オーラス、あなたは2着目で、トップとの差は1500点。親ではありません。ここでタンピンのテンパイが入りました。56の両面で47待ち、ダマで2000点の手です。リーチをかけますか?

反射的にリーチしたくなりますが、ここはダマが正解です。どこから出和了っても、ツモっても逆転トップで終局するので、打点を上げても着順は変わりません。一方でリーチには、1000点棒を供託に出すこと、手牌を変えられなくなること、そして「テンパイしています」と卓全体に知らせてしまうこと、というコストがあります。トップ目はあなたに和了られずに終わりたいので、リーチが入った瞬間にオリてしまいます。ダマにしておけば、トップ目は自分の和了りを目指して押してくるので、そのぶん4や7が出てくる可能性も高くなります。

同じ手牌でも、東1局の平場なら話は別です。先制の両面テンパイならリーチが基本で、出和了りなら2000点が3900点とほぼ倍になり、ツモや一発、裏ドラが絡めばさらに伸びます。リーチをかけるだけで、ほかの3人に押すかオリるかの判断を迫ることにもなります。手牌は同じでも、目的が変われば正解も変わるわけです。

私は2017年から日本プロ麻雀協会のプロとして活動していて、本業では、開発者向けプラットフォームの日本市場でカスタマーサクセスとGo-to-Marketを担当しています(麻雀の方の経緯は別の記事に書きました)。この記事では、卓で覚えて仕事でも使っている考え方をまとめます。

契約更新でのリーチとダマ

現行条件のままの更新で目標を達成できるなら、状況はさっきのオーラスと同じです。決まれば勝ち。そこにアップセルの提案を乗せるのは、和了ればトップの手にわざわざリーチをかけるようなものです。数字の上では大きく見えますが、手の内をさらすことになり、購買部門は慎重になり、自分も後から引っ込めにくい立場に縛られます。更新はダマのまま静かに決めて、拡大の話はあらためて別の局として持っていく方がいいと思います。

東1局の方は逆です。お客様との関係が始まったばかりで、実際の利用実績という良い待ちがあり、まだ失うものもない平場なら、大きな提案をはっきり打ち出すべきです。

押し引きは、情報が足りない中でのリスク管理

他家からリーチが入ったとき、分かっているのは「テンパイしていること」と「河に何が切られているか」だけです。待ちは見えません。そこから先の一打一打は、不完全な情報のもとでの小さな賭けです。当たれば放銃で、相手の和了り点を一人で払うことになります。この判断が押し引きです。

判断材料は多くありません。自分の手はどこまで進んでいるか。打点はいくらか。待ちは良いか。切ろうとしている牌はどれくらい危ないか。満貫の両面テンパイなら、基本的には全ツッパでいい場面です。安手の1シャンテンで危険牌を掴んだら、オリます。手を崩して安全な牌だけを切り、まずは現物(リーチ者自身が捨てている牌で、フリテンになるのでその人からはロンされない牌)から切っていきます。

逆に、判断に入れてはいけないのが、その手にかけてきた巡目です。ここまで育てた手だから、というのは押す理由になりません。使った巡目は、押しても引いても戻ってこないからです。もう一つ避けたいのが、中途半端な押しです。危険牌を2枚通してから3枚目でオリるのは、リスクだけ取ってリターンを捨てているのと同じです。早めに決めて、決めたら貫きましょう。

商談も同じです。契約までどのくらい近いか。いくらの案件か。決まるルートは複数あるのか、それとも一人の「はい」にすべてがかかっている単騎待ちなのか。そして、押すことのコストは何か。翌年の基準になってしまう値引き、チームの数週間分の時間、この先も必要になる関係。お客様が明らかに他社に決めていて、自分の手が安くて遅いなら、オリましょう。ベタオリした局はたいてい点数を減らさずに終われますし、商談もきれいにオリれば、関係は次の局のために残ります。

結果ではなく判断で評価する

「放銃する可能性があるとしても切るべき牌は切る」。麻雀を教えるときにも伝えたいと思っている考え方です。満貫の両面テンパイでリーチに押して、跳満に放銃したとします。押しが正しい判断だったなら、結果がどうであれ正しいままです。期待値とは、同じ場面を1000回繰り返したときの平均のこと。1回の結果からは、ほとんど何も分かりません。

麻雀なら、何千局と打つうちにこれを体で覚えられます。仕事の判断は数がずっと少ないので、1回の結果から間違った教訓を引き出しがちです。対策は、結果が出る前に判断を書き残しておくこと。何を知っていたか、何を選んだか、何が分かっていたら判断を変えていたか。振り返るときは、結果ではなくそのメモと照らし合わせます。

河を読む、相手を読む

捨て牌は誰にでも見える情報で、多くのことを教えてくれます。10巡目まで、ほかの色は切っているのにソーズだけ1枚も切っていない人は、ソーズの染め手に向かっている可能性が高いです。ずっとツモ切りしていた人が急に手出しをしたら、手の中で何かが変わった合図です。どれも確実ではありませんが、確率は動きます。それで十分です。

お客様も捨て牌を残しています。価格以外のことは何でも聞いてくる担当者は、おそらく価格を決める立場の人ではありません。毎週の定例がいつの間にか月1回になった、会ったことのない部署の人がCCに入ってきた。こうした変化は手出しです。相手の手の中で何かが変わったので、押す前にそれが何なのかを確かめたいところです。日本企業では、会議の前に根回しで方向性が固まり、稟議で正式に承認されることが多いので、会議室で見えているのは卓のほんの一部にすぎません。

大きな放銃の後の一局

南1局で跳満に放銃し、トップからラスに落ちたとします。次の局は、どんな牌でも押せそうな気がしてきます。誤解しないでほしいのですが、上との点差が開いたのなら、際どい場面で少し前に出るのは理にかなっています。でも、イライラしていることは押す理由になりません。自分に問うのは一つだけです。さっき12000点を失っていなかったとしても、この牌を押すか。

仕事でいえば、前の案件を落としたからといって次の案件で値引きすることや、役に立つからではなくイライラしているから送るエスカレーションがこれにあたります。失った点数が、次の局で戻ってくるわけではありません。一局だけペースを落として、それから普段通りに打てばいいのです。

ネット麻雀とリアル麻雀は別のゲーム

私は天鳳で育ち、今は日本のリアルの卓で打っています。この二つは別のゲームで、どちらが上ということもありません。ネットは速くて匿名で、膨大な数の局をこなせます。天鳳の段位戦は段位が上がるほどラスの減点が大きくなり、トップの加点よりずっと重くなるので、強いネット雀士はラス回避がとてもうまいです。リアルの卓では、ルールが店や大会ごとに違いますし、同卓者は前回のあなたの打ち方を覚えていて、打牌前の迷いも全員に見られています。

仕事も同じように分かれます。タイムゾーンをまたいだSlackのスレッドは、ネット麻雀です。速くて、文字で残り、転送しやすく、会ったこともない人にまで読まれます。東京の会議室はリアルの卓です。進みはゆっくりで、話すのは日本語、提案の後の沈黙が言葉と同じくらい多くを語ります。私の仕事のかなりの部分は、同じ判断を一方からもう一方へ、何も取りこぼさずに運ぶことです。

惰性で打たない

派手な押しのミスは、牌譜を見返せばすぐに分かります。長い目で見てもっと高くつくのは、たいていは正しいからと、考えずに切っている小さな打牌の方です。残す牌を間違える、崩す形を間違える、癖で切ってしまう、といったものです。

契約更新、オンボーディングの打ち合わせ、エグゼクティブ・ビジネスレビューは、カスタマーサクセスにとって日々の打牌です。去年のテンプレートのまま回しても、たいていはうまくいきます。それこそが問題で、違う打ち方が必要だった一件も、手遅れになるまではほかと同じに見えてしまうのです。

惰性で打たないこと。切る前に、一度考えてください。

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